dept24’s diary・生田和良・大阪大学名誉教授

ウイルスの目を通して、人間社会のウイルス感染症についてつぶやきます。

新型コロナの制限解除で気をつけたい感染症としての麻しん(はしか)

麻しんの原因となるウイルスが流行している国からの輸入をきっかけとして、数年ごとに日本のあちこちで麻しんの集団感染が起こることを繰り返してきている。最近では、2018年3月に沖縄県に外国人観光客が入国し、その後に発症したにもかかわらず3日間にわたって県内を観光し、不特定多数の人と接触したため、沖縄県ばかりか、東京都、神奈川県、それに愛知県にも飛び火をして麻しんの大流行となった。

 

麻しんには治療薬がないので、2回の生ワクチンを接種しておくことが重要である。沖縄で麻しん患者となった人たちはワクチン接種歴のない人が多かった(麻しんは小児の感染症との認識は昔の話で、今では感染歴がなく、ワクチン接種歴もない大人の患者が多い。大人が感染すると、小児よりも重症化しやすい)。

 

わが国では、麻しんは、風しんと一緒に混合ワクチン(麻しんMeaslesと風しんRubellaの頭文字をとってMRと呼ばれる)として定期接種されている。

 

しかし、平成元年に導入された麻しん・風しん・おたふく風邪(Mumps・MMR)ワクチンの定期接種株に副反応(無菌性髄膜炎)が多発したことから平成5年に中断され、現在も、一定の世代にワクチン未接種者が多く存在していることは知られている。

 

さらに、新型コロナウイルス感染症(COVID-19)パンデミックの影響から、世界の少なくとも41か国で2020年、2021年に実施予定であったワクチン接種キャンペーンが中止されている。わが国においても小児への定期接種率は、COVID-19発生以降は低下している。

 

新型コロナウイルスについて、わが国では手洗いや消毒、そしてマスクを着けることが重要とした対策ばかりであったが、最近になってやっと換気の重要性が加わってきた。2020年の途中から、エアロゾル感染があることが言われていたが、日本ではその対策としての換気がほとんど浸透していなかったように思われる。

 

麻しんは空気感染する代表的な感染症であり、新型コロナよりもはるかに周辺の人にうつしやすい、またうつされやすいことから、マスクや手洗い、それに消毒では対応しきれない。換気をすることも重要ではあるが、最も重要なことは2回のワクチン接種を徹底することである。

 

新型コロナでは、ワクチンを接種していても、時間経過とともに、大切な抗体が役に立たないレベルまで低下すること、それは特に高齢者において顕著であることが繰り返しテレビ等で放送されている。これまで、ワクチン接種後にどの程度抗体が上昇し、どの程度その活性が持続しているのか、あまり重要視されてこなかったが、麻しんに対する抗体も意外に低下しているかもしれない。海外から日本人の持ち帰り、訪日外国人の持ち込みに端を発して、次々とうつっていき、日本のあちこちで集団感染を起こす張本人にならないためにも抗体価を事前にチェックしておくことが大切ではないだろうか。