dept24’s diary・生田和良・大阪大学名誉教授

ウイルスの目を通して、人間社会のウイルス感染症についてつぶやきます。

新型コロナが収まると、次に現れる感染症は?

 2020東京オリパラがまもなく始まる。新型コロナの感染状況は収まるどころか、第5波が本格化しそうな勢いである。しかし、高齢者の多くはすでにワクチン接種をすませ、感染者数は増えているが、死亡者数は減っている。働き盛りの人たちが、変異株に感染したことによるのか、重症化しているとの報道も多いのが気になるが、この世代の人たちも、まもなくワクチン接種を受けられるだろう。

 

 このように、今のところ、ワクチン接種を各世代に行きわたらせることで、感染者数を減らし(このワクチンで感染を完全に遮断することはできなさそうである)、しかも重症化例も減らせることが期待できる。

 

 新型コロナウイルス感染症が、近い将来、大きな問題にならないような状況になるのだろうか?実際、そのような世の中になると、次にはどんな感染症が顔を出すと考えられるのか。そのような状況になっても、手洗いやマスクを、少なくとも日本ではかなりの人が励行し続けるのではないだろうか。そうなれば、インフルエンザもノロも顔を出しにくい状況であろう。

 

 では、大きな感染症は当分なくなるのであろうか。ここで、世界保健機関(WHO)は警鐘を鳴らしている。どこかで顔を出そうかと、状況を伺っている感染症として「麻しん(はしか)」を挙げている。麻しんは空気感染で広がっていく典型的なウイルス感染症で、世界的にも、なかなか根絶が難しい感染症である。新型コロナウイルスも「エアロゾル」、すなわち空気感染に近い伝播ルートがあると言われているが、麻しんほどではない。しかし、麻しんには非常に効果的なワクチン(弱毒性の生ワクチン)が存在する。2回のワクチン接種をしていればまず感染しない。ワクチンが開発されてから数十年も経っているが、その有効性はほぼ変わらず、新型コロナウイルスのように、変異株には効きが悪い、といった懸念がない。2015年、WHOの西太平洋地域事務局から「日本は排除状態にある」と認定された。これは日本の土着型の麻しんウイルスによる麻しん感染が、36ヶ月以上にわたって阻止されていることが認められたことによる。しかし、実際には、今なお麻しん流行国からの輸入感染症として、持ち込まれ、もしくは持ち帰られたウイルスによって、数年ごとに大流行している(直近では2019年の744例、図参照;その前は2008年の11,005例)。この流行を引き起こしているのは、2回のワクチン接種を行っていない人たちである。感染者の多くは、ワクチン接種を受けたかどうか覚えていない、1回しか受けていない、まったく受けていないなどの人たちである。

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麻しんの患者数(2014年-2021年7月7日)

 国立感染症研究所が発表している感染症発生動向調査によれば、図に示すように、新型コロナが発生した2020年は13例で、本年は2例である。近い将来、新型コロナが大きな問題ではない状況になると、経済活動が優先されるだろうから、海外へ、そして海外から訪問する人たちが急激に増えることが考えられる。そうなると、容易に麻しんウイルスが日本に上陸し、免疫が不十分な人たちの間で広がっていくことが想像できる。

 

 特に、新型コロナが発生して以来、小児の麻しんワクチン接種率が低下しているようである。懸念されるのは、麻しんには有効な抗ウイルス薬が開発されておらず、小児が麻しんに感染すると死に至ることもある。感染した人と接触した場合(濃厚接触者)、接触後3日以内であれば直ちにワクチン接種することが勧められている。3日が過ぎてしまっても、接触後4日~6日までであれば、発症を予防できる可能性があるとして、献血血液から製造されたイムノグロブリン製剤を投与することが勧められている。