dept24’s diary・生田和良・大阪大学名誉教授

ウイルスの目を通して、人間社会のウイルス感染症についてつぶやきます。

抗体カクテルが第4の新型コロナ治療薬として認定された(2021年7月19日)

 抗体は、ウイルスに感染したり、ワクチン接種したりで、からだに作られる免疫反応のひとつである。特に、ウイルスが細胞に感染するのを遮断する抗体を中和抗体という。ワクチン接種の目的のひとつが、この中和抗体をあげることである。

 

 現在、日本で進行中の新型コロナワクチンは、新型コロナウイルス粒子の外側にあるスパイクたんぱく質を作るための核酸(mRNA)を、脂質で包み込みナノ粒子化したものである。このスパイクたんぱく質は、喉や肺やそのほか多くの臓器に分布している細胞の表面に発現している受容体(レセプター)であるACE2に結合する性質がある。この結合は、感染の最初のステップになる。

 

 この結合を遮断できる中和抗体は、このスパイクたんぱく質のACE2との結合場所を認識した抗体である。それぞれ、少し認識場所が異なるが、同じく中和抗体としての活性を持つ2つの抗体を混ぜた抗体カクテルが、昨日の厚生労働省の国内での製造販売について審議する部会で特例承認された。これは、トランプ大統領に投与され、投与後数日で劇的な回復に導いた抗体カクテルである。

 

 実際、現在進行中のワクチン接種は、中和抗体を上げるためであるが、これは1回目の接種から3~4週間後に2回目の接種を行い、その後3週間ほど経ってようやくこの有効な中和抗体があがってくる。しかし、この抗体カクテルを点滴で投与すると、直ちにワクチン接種後の有効な状態とほぼ同じ状態にすることが可能である。したがって、抗体があがりにくい人にも有効なものになる。

 

 この抗体カクテルは、ウイルスの感染を遮断する活性があるものなので、軽症もしくは中等症の感染者を対象にした治療薬で、すでに重症化した患者は、ウイルスが増える時期は過ぎてしまっているので、対象外である。軽症もしくは中等症の感染者が投与されると、その後に入院もしくは死亡するリスクを70%低下させると、海外で実施された治験の結果が示している。日本では、その安全性を確認する第1相治験が行われて特例承認に至っている。

 

 このように劇的な効果があり、エスケイプ変異株も産生されないカクテル療法とは、HIV/ エイズの治療で発見された方法である。変異しやすいウイルスでも、変異できる頻度があり、複数の薬剤で異なる場所を攻撃された場合には、その2ヵ所を同時にエスケイプできる変異株は作れないということで、さすがのHIVも降参状態になり、今ではこのカクテル療法(多剤併用療法ともいう)により、感染者の日常生活には、ほぼ支障がない状態を維持できるようになっている。

 

 今回承認された新型コロナに対する抗体カクテル療法も、副作用が少ない、変異株が出にくい、ウイルス量の低下に有効など、良いことづくめであるが、問題はかなり高価な薬剤になると思われる点である。