dept24’s diary・生田和良・大阪大学名誉教授

ウイルスの目を通して、人間社会のウイルス感染症についてつぶやきます。

ウイルスの眼から見た、日本の新型コロナ対策

久しぶりに、ウイルスの眼から見た、われわれの仲間、新型コロナウイルスが入り込んだ人間社会での騒ぎについての感想を述べたい。

 

ウイルスとは、繰り返し述べているが、頭脳を持っておらず、また足も持っていない。しかも、ヒトの手を借りなければ(もちろん、いろいろな動物に取り付くウイルスは、それぞれの動物の手を借りる必要がある)、自分の子孫すら作れない。

 

新型コロナウイルスも例外ではなく、ヒト、特にその呼吸器系(喉や肺など)に入り込み、場合によっては全身に広がり子孫ウイルスを生産してもらっている。もちろん、その増え方はウイルス自身がコントロールしているはずもなく、増やしてくれているヒトの年齢とか体調(基礎疾患を患っているかどうか)などで変わってくる。症状がなくても増やしてくれるヒトもいる。したがって、ウイルスが増え、からだの外に排出することによって、また次の、増やしてくれるヒトにうつっていく。このようにしてだんだんと広がっているのが現状である。

 

人間社会では、若者が批判の対象になることが多いように思う。というのは、若者は基本的に体力があるので、感染してもほとんど症状がなく、元気に毎日動き回るので、広げやすいからである。初期のころはパチンコ店やカラオケ店、それにライブハウスなどが、また最近では飲食店とお酒がキーワードで、盛んにここで感染者が多数発生しているとの風潮が作られている。

 

そもそもウイルスは、人間にされるがままに増え、吐き出され、次の人にうつっていく。うつりやすい行動や感染の広がりをブロックする手段も人間の行動次第である。

 

最近では、新型コロナ対策の効果がないのは、今までの何倍もの感染力を持った変異株が現れたせいで、感染対策の間違いではないと言わんばかりである。テレビをはじめとして、ほとんどのメディアが、新型コロナウイルスの変異株が次々に現れ、それがいかに狂暴かの説明(言い訳)に終始している。

 

しかし、どんな変異株であっても、基本的な対策は同じである(マスクの着用・手洗い・3密の回避)。欧米諸国がいくらPCR検査数を増やそうが、ロックダウンを行おうがなかなか効果が上がらなかった。ところが、何をおいても、ワクチン接種を早急に、またダイナミックに進めることに躍起になったおかげで、顕著に効果が表れてきた。このワクチン接種は昨年末から始められていた。

 

われわれウイルス側からすれば、日本でもこの状況を見ていただろうし、まして1年遅れのオリンピック/パラリンピック開催を目指していたので、直ちに最優先で、猫の手も借りながらワクチン接種を進めるだろう、しかも若者が感染拡大の中心メンバーと思っているなら、まずそのグループから徹底的に接種していくのだろうと思っていた。そうすれば、早々に退散するしかないだろうなと思っていた。

 

ところが、である。日本の行政機関はじめ、専門家委員会も、われわれウイルスに対して大変優しい存在である。まさか、ここまでワクチン接種が遅れに遅れるとは思わなかった。しかも、医療従事者の次に、65歳以上の高齢者層からワクチン接種を始めている。64歳以下は、ようやくスタートである。少なくとも、まだ数か月はかかるであろう。これでは、近いうちにワクチン接種の恩恵を受けることはできないのではないだろうか(いやいや、我々にとっては大変ありがたい愚策であるが)。