dept24’s diary・生田和良・大阪大学名誉教授

ウイルスの目を通して、人間社会のウイルス感染症についてつぶやきます。

ワクチンの有効率がよく分からない

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ワクチンの有効率とは


 新型コロナワクチンの接種が進んでいる。各自治体によって違いがあるが、65歳以上の高齢者にとっては、何が何でも、人より先に打って貰うぞ、という意気込みを感じる。しかし、国が悪いのか、地方の自治体が悪いのか、まず接種券なるものが郵送されてくる、使ったこともないパソコンやラインで申し込む、電話する、かかりつけ医に申し込む、などどれを取ってもスムーズに進まない。子供たち、さらには孫までも動員して、なんとか早くに接種予約を完了し、やっとの思いで接種にこぎつけた人が、ちらほら見えてきたところである。

 昨年の段階では、まだ余裕があったのか、自分は慎重派なのでそう簡単にワクチンを接種したりしないぞ、との思いでいた人が多かったと思うが、ここに来て、高齢者はまるで戦いのごとく、必死の形相で予約する気持ちになった人が増えている。あの時に、「今までヒトに打ったこともないワクチンなんて、絶対打ちたくない」、「治験で大した副作用がなかったといっても、治験の間だけのことで、長期的な安全性がまだ全然わかってないものなので、私は様子見です」と言っていた人たちの多くが、ワクチンを接種したいと考えが変わったようである。

 この変化は、恐らくこのmRNAワクチン(現在、高齢者に接種されている新型コロナワクチンは2社由来で、どちらもこのタイプ)とやらは、とてつもなく有効率が高かったそうだ、という点が理由と思われる。インフルエンザワクチンに比べると倍ぐらい高い数字である。

 図に示したように、ファイザー社製ワクチンの有効率は95%、モデルナ社製ワクチンの有効率は94.5%と報告されている。この値は、それぞれ43,000人(12歳以上が参加;56-85歳が40%以上)、30,000人(18歳以上が参加;65歳以上が7,000人=23%)の人を対象に第3相試験を行って、明らかになった数字である。前者は3週後に、後者は4週後に2回目の接種をする条件で得られた。

 第3相試験は、ファイザー社製ワクチンでは米国39州、アルゼンチン、ブラジル、南アフリカ、ドイツを含め世界中の154施設で実施された。一方のモデルナ社製ワクチンでは米国30州、およびワシントンDCの89地域で実施された。

 その結果、図の下段に示した通り、ファイザー社製ワクチンでは新型コロナを発症した人数が、ワクチンを接種していない人のグループでは162人、ワクチンを接種していた人のグループでは8人であった。モデルナ社製ワクチンでは、ワクチンを接種していない人のグループでは90人、ワクチンを接種していた人のグループでは5人であった。

 そこで、ファイザー社製ワクチンは162人と8人であることから、その差の154人分(=95%)を抑えたことになる。モデルナ社製ワクチンは、90人と5人なので、85人分(=94.5%)を抑えたことになる。

 

 以上、このような経緯から95%と94.5%という数字が世に出ているわけである。したがって、日本とは条件も実施された地域も大きく異なる状況下で得られた結果である。

 ただ、非常にわかりにくいのであるが、現在ワクチンを接種しようとされている皆さんは、「このワクチンを接種しておくと、95%の確率でもう大丈夫なんだ」と理解されている人が多いのではないだろうか。しかし、以上の背景を考えると、そもそも発症する人はごく一部である、その少ない中(第3相試験が実施された地域に比べると、日本の場合にはさらに少ないと思われる)で、さらに少なくなる率(=有効率)がこのパーセントなので、なかなか実感として伝わってこないと思われる。