dept24’s diary・生田和良・大阪大学名誉教授

ウイルスの目を通して、人間社会のウイルス感染症についてつぶやきます。

われわれウイルスの眼から見ると 感染者急拡大の一番の貢献者(いわゆるスーパースプレッダー)の存在とエアロゾル(マイクロ飛沫)による伝播ルート ――人間にこのことを知られるのが怖いーー

 専門家のコメントや記事でよく伝えられている通り、われわれ新型コロナウイルスがうまく入り込んだ人間のほとんど(80%)は周辺の人にうつしていないそうで、感染者の多くはウイルス伝播貢献者ではないらしい。

 あとの20%くらいの人が、周辺にいる人にうつしている。その中に、ごく一部であるが、1人で10人以上もの人にうつしている感染者の存在も知られるようになっている。2002〜2003年に発生したSARSの時にスーパースプレッダーと呼ばれる人の存在が盛んに報道されていたが、今回の新型コロナウイルスの場合も、同様の広がり方をしているのかも知れない。ただ、2003年当時と違って、マスクがユニバーサル化したり、こまめな手洗いや、街中の至る所でのアルコール消毒が徹底しているなど、状況が大きく異なっている。SARSの時は飛沫感染中心の広がり方であったが、今回の新型コロナウイルスの場合には、飛沫感染接触感染の対策が採られていても(一部の飲み屋街での大声での会話やカラオケなどでは、当然これらのうつり方が主なルートだろうが)、なかなか収まらないどころか、感染者は増えている。とすれば、世界保健機関(WHO)も認めているエアロゾル(マイクロ飛沫)を介した感染が大きく関わっているのではないかと考えられる。

 大声で話したり歌ったりすると、肺や喉にある感染した細胞から飛び出したウイルス粒子を包み込んだ、大きさの異なる飛沫が口や鼻から吐き出される。大きな飛沫は1メートル程度で落下し、少し離れている人には、もううつせない。しかし、小さな飛沫(これがエアロゾルとかマイクロ飛沫と呼ばれている)では、空気中に浮遊し3時間程度はウイルスが生きている状態を維持しているそうなので、締め切った部屋で数時間一緒にいると、エアロゾルの濃度が上がりうつしやすくなると考えられる。しかも、この小さな飛沫はマスクを通り抜ける。咳やくしゃみをしなくても、呼吸している限りその呼気中に含まれ、ずっと吐き出されている。

 この小さな飛沫が呼気の中に含まれて飛び出しているのであるが、その小さな飛沫の量は人によって異なり、相当多めの人がいることも明らかにされつつある。感染していても、症状が軽かったり無症状であれば本人に感染の自覚がなく、通常の生活を送っている。そんな中、特に密室で数名と過ごした場合には、集団感染を起こしやすい状況になると考えられる。

 日本では、どうも飛沫感染接触感染を中心とした対策を推し進め、パチンコ店から始まり、夜の街、現在は飲食店だけでなくデパートや劇場、美術館や博物館などの屋内施設に加え、屋外施設がほとんどを占めるテーマパークや大型の公園など、およそ人が集まると思われる多くの場所を対象にしている。しかも、アルコール消毒やアクリル板の設置、店員がマスクをしているなどで、新型コロナの優良対策店ですというワッペンを配布している自治体もあった。そういう店では表に堂々とワッペンを貼り、満員のお客でワイワイ状態であった。しかし、この飛沫感染接触感染でうつったかどうかを確認してきた疫学調査の結果では、感染ルートが不明だとする割合がどんどん増加し、今では70%にも達しているという。となると、もう一つのエアロゾル感染ルートを本気で遮断する対策をなぜ行わないのだろう?

 もし、エアロゾル感染が、隠れた集団感染の感染ルートであることに気づかれると、われわれ新型コロナウイルスも退散せざるを得ないと思っているのだが。